「選ばれる物件」は情報発信から始まる ─ オーナーに必要なプロモーション思考

オフィスビル市場はここ数年で大きく様変わりしています。新築ビルの供給増加や企業の働き方改革、そしてリモートワークの浸透などにより、従来の「出せば決まる」という時代は終わりました。
現在はテナント企業が多様な選択肢を持ち、より厳しい目で物件を比較する状況にあります。しかし一方で、多くのオーナーは依然として「仲介業者に任せておけば埋まる」という発想にとどまっており、自ら主体的に情報発信を行う姿勢が不足しています。
仲介業者への共有資料や自社サイトへの掲載だけで済ませてしまい、物件の魅力を十分に伝えきれていないケースが散見されます。その結果、せっかくの立地や設備といった強みが市場に届かず、成約機会を逃してしまうのです。本記事では、オーナーがなぜ情報発信に力を入れるべきか、そしてどのような思考と行動が求められるのかを整理していきます。
情報共有の“質”がオフィスの成約を左右する
仲介業者に情報を渡しているから安心、と考えるオーナーも少なくありません。しかし実際には、仲介業者は日々膨大な物件情報を扱っており、紹介する物件を選ぶ際には「資料の分かりやすさ」や「提案しやすさ」が重視されます。
例えば、図面と条件だけしか提示されていない物件と、写真や完成予想パース、レイアウトイメージが揃っている物件があった場合、後者の方が圧倒的にテナントに伝えやすく、紹介の機会も増えるのは明らかです。つまり、情報共有の“量”よりも“質”が成約の可能性を大きく左右します。
資料不足は仲介担当者に余計な説明の負担を与え、他物件に流れてしまうリスクを高めます。反対に、整備された情報は仲介業者にとって武器となり、オーナーの物件を優先的に紹介する理由になるのです。
オフィス不動産オーナーが自ら整備すべき情報とは
オーナーが今後意識すべきは、基本情報を超えた「入居後のイメージ」を伝えるための情報整備です。具体的には、竣工後写真や内装の完成予想パースを活用することで、テナントは自社の社員が働く姿を容易に想像できます。
加えて、レイアウトプランや家具配置例を示すことで、ワークスタイルを視覚的に訴求することが可能です。特にセットアップオフィスの場合、内装の特徴や導入している設備を分かりやすく説明することが成約スピードを高めます。さらに周辺環境や交通アクセスの情報も重要です。
「どの駅から徒歩何分か」だけではなく、周辺の飲食店や商業施設、採用における魅力などを加えることで、入居後のメリットを具体的に示せます。
仲介業者が資料をそのまま提案に使えるレベルに整備しておくことこそ、オーナーがすぐに着手できる差別化の第一歩です。
自社サイト掲載の役割と限界
オーナーにとって、自社サイトは最も信頼性の高い情報発信拠点です。空室状況や募集条件をタイムリーに更新できる場として機能する一方で、発見性が低く、掲載するだけでは新規の問い合わせにつながりにくいという弱点があります。
多くのケースで、仲介業者や既存顧客が情報確認のために訪れることはあっても、潜在的なテナント企業が自社サイトを直接訪問する機会は限られています。
そのため、自社サイトは「公式情報の倉庫」として活用しつつ、実際のリーシング成果を得るためには仲介業者との連携を軸に置くことが不可欠です。
つまり、自社サイトは基盤、仲介業者との共有は拡散という役割分担を明確にし、両輪で進める戦略が求められます。
情報発信を強化する具体的施策
情報発信を実際に強化するための施策は、いくつかの段階に整理できます。第一に、物件資料のアップデートです。仲介業者が提案に活用しやすいフォーマットを意識し、写真、パース、レイアウト例を揃えることが必須となります。
第二に、セットアップオフィス特有の紹介資料を作成することです。竣工後の写真に加え、設計コンセプトや投資の背景を説明することで、テナント企業は単なる「箱」ではなく「価値のある空間」として認識できます。第三に、自社サイトの物件ページを拡充し、魅力が整理された状態で公開すること。
最後に、仲介業者向けに定期的なメール配信を行い、「新着物件」や「空室予定」の情報をタイムリーに届ける仕組みを整備することです。これらの施策は大規模な投資を必要とせず、継続すれば確実に効果を発揮します。
プロモーションは「コスト」ではなく「投資」
一部のオーナーにとって、資料作成や配信の費用は「余計な経費」と捉えられがちです。しかし、空室1か月あたりの損失を考えると、その認識は大きな誤りです。
例えば、月額賃料が100万円の区画であれば、1か月空室になるだけで100万円が失われます。それに対し、数十万円の資料作成費用やメール配信体制の整備は、一度成約が早まれば即座に回収できる投資です。
さらに、情報発信を通じて早期にテナントを決定できれば、安定したキャッシュフローが確保され、長期的には資産価値の維持・向上にもつながります。
つまり、プロモーションを単なるコストと捉えるのではなく、収益性を高めるための「攻めの投資」として位置づけることが重要です。
オーナーが今日からできる3ステップ
情報発信を強化するために、オーナーが今すぐに実践できる具体的なステップは三つあります。第一に、物件ごとに「仲介業者に渡せる資料」が十分に揃っているかを点検することです。
特にセットアップオフィスでは、内装写真やレイアウト例が不足していないか確認が必要です。第二に、自社サイトの物件ページを最新化し、空室状況や条件を正確に表示させること。
第三に、仲介業者向けの定期的なメール配信を仕組み化し、新着情報を継続的に届けることです。この三つを実践するだけでも、仲介業者から「紹介しやすい物件」として評価され、内覧機会を大幅に増やすことができます。
まとめ
オフィス不動産において、「選ばれる物件」とは単に立地やスペックが優れているだけではなく、情報が整理され、仲介業者やテナントにとって魅力的に映るよう発信されている物件です。
情報発信の不足は紹介機会の喪失につながり、結果的に空室期間を長引かせるリスクを伴います。オーナーが主体的に資料を整備し、自社サイトや仲介業者への発信を強化することで、資産価値を守り、収益を安定化させることができます。
プロモーションはもはや選択肢ではなく、オーナーにとっての責任であり戦略的行動なのです。


